奥のコソ道

池田ですが、イケイケではないです。イケてない方のイケダです

母にとってのフェス

暑いあつい東京砂漠
コンクリートジャングルを
身体中の水分を蒸発させながら
へろへろと歩く


私の心のオアシスはどこだ?
と、思っていたときに
母からの着信があった。

 

 

私の両親は
私が小学生のときにそれぞれの道を進むことを選択して


私自身もそのときに
どちらと暮らすかという選択肢を突きつけられ

父の元に残ったから

母とは、たまに会ったり、電話したりするんだけどね

 


なんてゆーか、ゴーイングマイウェイって言葉がよく似合う人なんだ、母は。

世界はきっとこの人を中心に回ってるんだろうなってくらいの自己表現の数々

 


会うたびに
「あんた太った?お母さんの方が細いんだけど」
とか
人のことを勝手に自分の土俵にあげて、のこったのこったしてくる
まぁ、力士体型は認めますが。

 

 

ある日、母に会いに行ったとき
「あんたと買い物するために、お金貯めてたんだよ!」ってドヤ顔。

たまにしか会わない娘に
いろいろ買ってあげたいという親心を出してくる

んで、洋服を買おうっつって
ショッピングしてたんだけど

お店の人がね、こちらはいかがですかーって、勧めてくるものを
母は、一旦、鏡の前で自分の体に当ててから
私のところにあててくる

こちらは、こちらは、ってゆー店員のリズムにのりながら
一旦自分に当てて、私にもってくる。
よくわからないキャッチアンドリリース

まぁ、あれだよね。
娘に着せるものがどんなものなのか、真剣に選んでくれてるってことなんだよね。

そう思っていたんですが。

私が「これ、かわいいー」ってなった1着のワンピースがありまして。

それを聞いた母が、店員さんに「試着させてください」と。

その服のハンガーを外しながら店員さんが
優しいお母さまですねー、って。

母も褒められてまんざらでもなさそうな表情で。

店員さんが試着室に案内してくれたんだけど

私が入ろうとした隙に
母が横からスッッて入った
すごく自然にスッて。
一足先に試着室というステージに立つ母。

ドギマギした私をよそに
「お母さん、試着してみるから、ちょっと待ってて」
と、
店員から服を受けとる母。

店員も一瞬ギョッとしたあとに「あ…お母さまがご試着なんですね…」と察した表情をする

バタン、という扉の音と共に
閉め出される私と店員。


お見合いでいう「あとは若いお二人で」のあとかな、これは。
と思わせるような気まずい空気が二人の間に流れ
店員さんと目が合うたびに乾いた笑顔になる

そんな、にらめっこが3分くらい続いたころだろうか、壁の向こうから私の名前を呼ぶ声が。

試着室のドアを開けると
ワンピースを身にまとった母が
ちょっと!早く入って!と、無理やり中に招いてくる

ファスナーが!閉まらないから閉めて!
と。

とりあえず、部屋のドアだけ閉めて

半開きになった背中のファスナーも閉めようとしたんだけど

 

もーね、閉まんないの
びくともしない

よく「背中は語る」とかいうけど
50数年の歴史がそこに刻まれてるっつーか
着々と地層的なのか年輪的なのか積み上げられた、ぜい肉が語ってんの

無理~って。語りすぎてんの。
軽く白旗が上がってる。

店内からは『お客様、いかがですかー』の急かす声がするし

ちょっと待ってくださいねー、と店員さんに言いながら
母は「お願い」って言わんばかりの
目配せを私にしてくる

私に課せられたのは、とんだミッションインポッシブル。

 


とにかくこの事態をどーにかせねばと
母と共同作業によりファスナーをあげようと
二人でヒッヒッフーしてた

もう、海ガメあたり産卵するんじゃないかってくらいの
ヒッヒッフーにより
ようやくファスナーが終着地点につくころには、かなり汗だくになっていた

満足そうに試着室から出た母
いろんなところが、3Dメガネいらないくらいの臨場感
肩とか腕とか、それってガンダム?みたいな
アムロもどっか行っちゃうくらいのリアリティー

それでも店員さんから、お似合いですーみたいなことを言われて
次の瞬間には袋に包まれたワンピース

その後のワンピースの行方といったら
母に1~2回ほど着てもらい

次に私が母のもとへ遊びに行った際
「これねー、なんか違ってた」ってゆー
一言を添えられて手渡された

グランドライン越えて、大航海を経て私の手元にあります、ワンピース。

 

 

そんな母から着信がありまして。

夏はなにしてんのー?と

そんな電話だったんだけど

私が「夏の予定はー、友達と音楽の野外フェスに行くんだよ!」
ってね、お知らせしたの

そしたら
「なにそれー?お母さんも野外フェチになりたーい」っつって。
何度フェスだっつっても
フェチでリターンされるから

もう、この際
野外フェチでいーや

ってなった、そんな夏の出来事です

 

 

イケてない
池田の日常